子どもの困り感
子どもの学習支援をしていると、本人様や保護者様から色んな「困り感」を聞きます。
例えば・・・
・漢字が書けない、覚えられない
・計算にとても時間がかかる
・文章を読んで理解することが難しい
・前に習ったことをすぐに忘れてしまう・・・などなど。
その「困り感」は子どもによってそれぞれで、同じ「漢字が書けない」という事象でも、少し深く聞いていくと「思い出せない」、「文字をバランスよく書けない」、「自分では合っていると思って漢字を書いても間違えている」など、より詳細な、「その子の困り感」が出てきます。
人間は、1つの行為をするにしても、実は細かい沢山の能力を複雑に複合的に使っています。
「漢字を書く」という1つの行為にしても、その周囲には様々な力が複雑に関連しているのです。
そのため、その関連している力の中で、どの力が強く、どの力が弱いのかによって、「その子の困り感」は変わってきます。
では、それをどうやって把握し、判断していくのか?
それを可能にするのが、「アセスメント」です。
アセスメントなき支援は成り立たない
このタイトルは、私が社内研修や社外研修で講師をする際に、必ずお伝えする言葉です。
私は、「アセスメント」こそが支援の基盤であると思っています。
「アセスメント」とは、
『人を理解し、人の行動や発達を予測し、その発達を支援する方法を決定するために行われる、測定や評価(本郷一夫,2008)』のことです。
その子どもの情報を集め、情報を統合・分析することで、その子どもの能力を捉えていくプロセスです。
アセスメントがなければ、その子どもの正しい状態を把握することができず、見当違いな支援をしてしまったり、時間を無駄にしてしまうこともあります。
支援の形を考える時、この図のように3つの視点について考えることがポイントになります。
この3つの中で、一番最初に捉えるのは、起きている事象(What)です。
これ「今、目の前で起きていること」です。
漢字が書けない・・・というのは、正しい漢字が書くことができていないという「事象」に当たります。
この「What」が、ご本人様や保護者様からの「困り感」として出てくることが多いのではないかと思います。
「What」の次に考えるのが、「Why」または、「How」です。
漢字が書けないというWhatに対して、
Why・・・なぜ、漢字が書くことができないのか?
How・・・どうすれば漢字が書けるようになるのか?
この2点を考えます。
実際の支援の現場では、「Why」よりは、「How」を考えることが多いのではないでしょうか?
目の前の子どもが、「漢字が書けない」と困っている姿を見ると、支援者の視点では、「どうすれば漢字が書けるようになるのか」という具体的な方法を考えることが多くなるのは必然だと思います。
しかし、私自身は「Why」こそが重要だと考えています。
理由は、「なぜ書けないのか?」がわからないと、「どうすればいいの
か?」もわからないのではないかと思うからです。
「なぜ書けないのか」を分析し仮説を立てることで、「こういう支援をしてみよう」という具体的な方法に繋がっていくのだと思います。
「Why」を追究することで、明確な「How」が見えてくるということです。
「漢字を書くことが苦手な子どもへの支援」の方法は沢山あります。
その中のどの方法が有効なのかは、「なぜ」がわからないと判断ができません。
<やってみないとわからない>は勿論ありますが、手当たり次第にその方法を試していくというのは、あまりにも労力と時間がかかります。
また、上手くいったことや上手くいかなかったことについても、「なぜ上手くいったのか?」「なぜ上手くいかなかったのか?」を考えて行かねば「最適な支援」を考えて行くことは難しいのです。
子どもの特性を理解し、得意な能力と苦手な能力を把握した上で、「この方法が有効なのではないか」という仮説を立て、支援し、結果を確認していくことで、支援の中のPDCAが回わしていくことが重要なのです。
先人の先生方達のお陰で、「支援の方法」についての情報は沢山あります。
その中のどの方法を選択するのか、「その子に合った方法」というものを見つけていくためには、「Why」を考えることが重要だと思います。
アセスメントの内容
では、アセスメントは何をもって「アセスメント」というのでしょうか。
アセスメントの中には、大きく3つが含まれます。
①行動観察
②ヒアリング
③各種検査
①行動観察とは・・・
子どもを直接見た時に、見えてくる子どもの行動や様子です。
子どもの表情や動き方、話し方、息づかい、視線の動かし方・・・など。
細かい部分にも着目していくことが重要です。
またそれ以外にも、字を書くときのクセや、姿勢の取り方、言葉の使い方なども行動観察から見えてくるものです。
学習支援の中では、「どんな間違い方をするのか」や、「どんな問題が正解しやすいのか、間違いやすいのか」なども見ていきます。
②ヒアリングとは・・・
ヒアリングは、主に保護者様やご本人様への聞取りになります。
現在の状況や、生まれてから今までの発達の歴史、通院歴、学校での様子と家庭での様子、お友達関係・・・など。
子どもの「これまで」と「今」を把握していきます。
どんな発達の過程を経て、今のその子になっているのか・・・
目の前の子どもを知るためには、生育歴はとても重要です。
③各種検査
検査と言っても、様々な検査があります。
知能検査をはじめとして、発達検査や読み書き検査・・・など。
検査の結果は、その子の能力を客観的に分析するのに有効です。
子どもの得意な力と苦手な力を、検査の結果から分析し見出していきます。
得意な能力を使って、苦手なところをフォローしていくためには、検査の結果はとても重要な役割を果たします。
合理的配慮の申請などにおいても、申請のエビデンスとして扱われます。
これら3つの情報を多角的に収集し、統合・分析しながら、全人的視点から「なぜその子が困っているのか?」を考え仮説を立てます。
これこそが、「アセスメント」です。
「行動観察」「ヒアリング」「検査」・・・どれもとても大切な、「子どもの情報」です。
この中でも特に私が重要視しているのは、「各種検査」です。
アセスメントの中の検査
知能検査や発達検査というのは必ず「標準化」されています。
検査の結果が主観的なものではなく、検査者によって結果に差が出ないように作られているのです。
「なぜ、漢字が書けないのか」を考える時に、検査の結果を分析すると、「書く」という行為の周りにある、どの力が弱く、どの力が強いのかを把握することができます。
「書くことができない」という事象の原因を追究することができるのです。
たとえば、「形を捉える力」が弱い場合、漢字を学ぶ時にそもそも正しい形を認識していない可能性もあります。
漢字の部分(パーツ)や、線の数、点の有無、点の位置など・・・文字を形として認識することが難しいのかもしれません。
そうなると覚える時点で間違えて覚えてしまっている可能性も考えられます。
「文字の想起」が弱い場合は、頭の中に入っているものを引き出してくることが苦手です。
問題を見た時に、「えーっとなんだっけ?なんとなく覚えているような気もするんだけどー・・・」とぼんやり思い出すことができても、漢字を正しく思い出すことが難しいのです。
漢字自体は正しく覚えることができていても、いざ書く時には思い出せない・・・ということになります。
このように、どの力が強く、どの力が弱いかによって、間違い方や困り感が異なります。
当然、この間違い方や困り感によって、「支援の方法」も異なるのです。
もちろん行動観察やヒアリングから得た情報も統合して仮説を立てますが、子どもの「困り感」の「Why」を探るためには、客観的なデータとしての検査結果はとても重要な指標となります。
そして、この「Why」から「How」を考えることで、最大限有効具体的支援方法を見つけ出すことができるのです。
アセスメントの役割
このように、支援の形の中で、「Why」の意味はとても大きいものです。
アセスメントは、支援の要と言っても過言ではありません。
アセスメントを適切に行うことで、具体的な支援の方向性を決めることができます。
支援方法についての根拠となるのが、アセスメントです。
無駄な時間を省き、その子の能力や時間を最大限に有効活用できることで、支援の効果も高まります。
子どもに大きな負担をかけずに、必要な支援を必要な形で届けることができます。
「What」から「Why」を考え、「How」に繋げる。
子どもの「困り感」について、アセスメントの結果から原因を探り、その子の能力を把握し、その子に合った具体的な支援方法を実施すること。
これが、子ども達が「自分らしく」生きていくことを支援する上で大切なことなのではないでしょうか。