個別最適学習ラボ

書字障害のトレーニングをする前に~漢字や文字が書けない理由を理解しよう~
書字障害のトレーニングをする前に~漢字や文字が書けない理由を理解しよう~

こんにちは。

SOLE個別最適学習ラボ編集部です。

私たちは、大阪で発達障害のお子さんへの学習支援を行っています。

今回は「書字障害」について考えていきたいと思います。

  • 字が極端に下手
  • 漢字が覚えられない
  • ノートを書くのが極端に遅い
  • マスに字がおさまらない

このようなお子さんに対して、どんな支援ができるのかについてまとめました。

参考になれば幸いです。

○書字障害とは?

まずは、「書字障害」とは何かをみていきたいと思います。


書字障害の正式名称はディスグラフィア(書字表出障害)

「書字障害」という呼び方は、通称です。

正式には「書字表出の障害」といいます。

英語ではdysgraphia(ディスグラフィア)です。

読み書き障害との違い

よく似た言葉で「読み書き障害」というものがあります。

この正式名称は「限局性学習障害」、略語で「LD」と呼ばれることもあります。

読み書き障害は、その言葉の通り「読み」と「書き」両方に困り感があることを指します。それに対して、書字障害は「書き」のみに困り感が見られている場合のことを指します。

 しかし、後述する通り、「書き」の困難さには、実は軽度の「読み」の困難さが関係している場合もあります。

ある研究では、書くことに問題があるお子さんの30~47%は読むことにも問題を抱えている、という結果が出ました。

併存疾患:
・書字障害は単独で起こることもあるが、通常は読み障害、その他の学習障害と共にある。
書くことに問題のある子どもの30~47%は読むことに問題がある。

愛媛県発達障がい者支援センターあい♥ゆう
★学習に困難がある子どもの支援に関する資料 ④書字障害 より引用

「書字障害」と「読み書き障害」の明確な分け方はなく、それぞれのお子さんごとで困っている部分に対応していくことになります。


○字が書けないのはなぜか明確にしよう

「字が書けない」ことが書字障害の主な症状ですが、どうして字が書けなくなっているかは様々です。

 字を書けなくしている原因を明確にして、それぞれに対する対処を考えていく必要があります。

上記の図はあくまで一例ですが、「書く」ためには多くの機能が関係している、ということをご理解いただければと思います。

 ここでは、よく見られる「字が書けない」原因について簡単に説明します。 

※厳密には「書字障害」は「読み書き障害」や「その他の発達障害(ADHD,ASDなど)に起因した書きの苦手さ」とは区別された疾患群ですが、この記事では「字が書けない」という状態像にスポットをあてて、その原因や支援について記載させていただきます。


①「見る力」が弱い

ここでいう「見る力」は単純な視力のことではありません。 

「目を動かして、情報を捉える」こと。 

「細かい部分まで、情報を捉える」こと。 

例えば、学校の授業の場面を思い出してみましょう。

先生が、「ここから、こう書きます」と前で書き順を説明しています。

先生が書く線を、視線で追って、書き順を理解する勉強ですね。

しかし、先生の手の動きに合わせて、目線を動かすことが苦手なお子さんもいます。
前にある風景をそのまま見ることは出来るのですが、ある一点に注目し、そこを追いかけていくような「見る力」が弱いお子さんです。

 これを「眼球運動が苦手」といいます。

もう一つ、「見る力」に苦手さがあるパターンを挙げましょう。 

「書」という字には大量の横線がありますね。 

はたして何本あるのでしょうか。 

私たちは、注意深く上から見て数えていけば、正しく8本と数えることが出来るでしょう。 

しかし、この「注意深く上から見る」ことが出来ないお子さんがいます。 

点が何個あるのか、斜めの線はどこから出ているのか。 

こういった視覚情報を正しく捉え、頭の中に正しく再現する。

 この力を「視知覚機能」といいます。

 これらの「眼球運動」や「視知覚機能」に苦手さを持つお子さんの場合、お手本の文字が「正しく見えていない」「正しい形を捉えられていない」状態であり、お手本を書き写しても正しく書くことが出来ません。 

②音韻処理が苦手

音韻処理とは、言葉を構成するそれぞれの音である「音韻」を、脳が処理する働きのことです。

目で見た文字と音(音韻)を関連づけたり、逆に音から文字を想起したりします。

<音から文字への音韻処理>

この音韻処理の力に弱さがある場合は、文字から音に直す「読み」や、音から文字にする「書き」の困難が生じる場合もあります。

例えば、口頭で言われた言葉を書くときに極端に時間がかかったり、ひらがなの単語の一文字を書き誤るような場合、「音」から「文字」への変換が難しく、結果として書きに障害が出ている可能性があります。

③協調運動の障害

「協調運動」とは、自分の体のそれぞれの部分を、協力して動かすことです。

例えば、消しゴムで文字を消すとき、消しゴムを持った手と反対の手は、ノートを押さえる動きをします。右手と左手の協力プレイです。

ズボンを履くとき、手でベルトの部分を持って広げながら、片足ずつ足を通します。

手と足の協力プレイです。立っている方の足でバランスをとることもそうです。

これらの「協力プレイ」が苦手で、文字が上手く書けない場合があります。

「目で見た情報」と「手の動き」の連携が上手くいかず、結果として歪んだ字を書いてしまう状態です。

専門的な言葉では、「目と手の協調」といいます。

文字がマス目からはみ出てしまったり、パーツの大きさがバラバラになってしまう場合、協調運動の苦手さが書きの苦手さの原因になっている可能性があります。


その他

①注意欠如 

注意集中に苦手さがある場合、文字を見落としたり、文字の細部の認識に困難があったりするため、文字の形を理解しにくいと考えられています。

 ②視覚過敏 

視覚過敏によって、紙と文字の色のコントラストを過敏に感じ取ってしまうことで、教科書やノートに向き合えない場合もあります。 

③ワーキングメモリの低さ 

ワーキングメモリとは、作業をするための一時的な記憶スペースのことです。 

例えば、黒板に書いてある「こんにちは」という文字をノートに書きうつすときを考えましょう。 

  1. 黒板の「こんにちは」の文字を読む 
  2. 「こんにちは」と書いてあることを覚えたまま、目線をノートに写す 
  3. ノートに「こ」と書く。その間、「んにちは」を書くことを覚えておく 

この2と3の「覚えておく」ために使われるのがワーキングメモリです。 

ワーキングメモリの容量が少ないと、例えば「こんにちは」の「こんに」までしか覚えられないかもしれません。複雑な漢字だと、その一部までしか正しく覚えられないでしょう。

 このように、ワーキングメモリの低さが、書くことの苦手さにつながっている場合があります。

○まとめ

書字障害については、まだまだ周知されておらず、「頑張れば書ける」と思われてしまうことが多いです。

書けないのはなぜかの原因を見つけ、それに対してアプローチしていくことが大切です。

SOLEでは、書くことに苦手さのあるお子さんの検査を行い、その原因を検討したり、合理的配慮や学習方法についての今後の方針を立てることができます。

お困りのことがあればご相談ください。

また、今回の記事では、「書けない原因を見つける」ことについてお伝えしました。

具体的なトレーニング方法や、合理的配慮については、以下の記事をご覧ください。