個別最適学習ラボ

合理的配慮獲得までの実践事例について①アセスメントの結果と現状
合理的配慮獲得までの実践事例について①アセスメントの結果と現状

こんにちは。

SOLE個別最適学習ラボ編集部です。

2024年4月1日より、私立学校を含むすべての学校で【合理的配慮】の提供が義務化されました。

合理的配慮とは、障害のあるお子様が他のお子様と平等に教育を受けられるように個々のニーズに合わせて必要な調整を行うことです。

参考:障害者差別解消法合理的配慮

しかし、学校等での合理的配慮は保護者様の要望があったとしても、学習においては具体的な合理的配慮が提供されるケースは少なく、とくに中学校以降の定期試験や高校受験において合理的配慮を勝ち取るのは厳しい状況があります。

学校現場では、

「法的には義務化されたものの、個々のケースにはどのように対応すればよいのかわからない」

「合理的という基準が難しく、特別扱いにあたるのではないか?」

といった戸惑いの声も多くあり、改善には、情報の提供、支援体制の強化が必須となっています。

こういった現状に対応するためSOLEでは、「個々のニーズに合わせた必要な調整」を発達検査や行動観察等のエビデンスをもとに見極め、実際に実践し効果のあった配慮事項を学校に提供する取り組みを行ってきました。

「子どもにあった合理的配慮って何?」

「どんなふうに学校と相談していけばいいの?」

そのような相談をよくお受けします。

そこで今回より、全4回(予定)にわたって、合理的配慮獲得に向けて現在実行中の事例をリアルタイムでご紹介をさせていただきます。

第一回の今回は対象児(A君と表記させていただきます。)がどのような背景のある子どもなのか、アセスメントの結果と現状の学習状況についてお伝えできればと存じます。

背景 — なぜ今回の配慮検討に至ったのか

A君は公立小学校 5年生。

支援級に在籍しており、国語・算数は抜き出しで支援級での指導を受けています。

就学前から弊社の学習支援を利用していました。

小学校1.2年時は弊社の利用はなく、小学校3年生から利用を再開。

他にも医療的リハビリ、外部事業所、公的療育など、複数の支援を継続的に受けてきました。

小学校3年生で弊社の学習支援の利用を再開した際、A君は小学校1年生で習う漢字が未定着でした。

たとえば「走」と「虫」の書き分けが難しいなど、形を正しく見ることと書字の困難さがみられました。

3年生で理科・社会の学習が始まり、授業で「方眼ノート」の指定がありました。ところが、「方眼ノート」に書くこと(小さい字が書けないので方眼ノートの1㎝角のサイズで字を書くことが難しいのと、5mmの線を組み合わせて1cmのマスを読み取ること)自体が難しい状況でした。

小学校4年生の段階で、漢字学習にタブレット導入を学校に申請し、許可されました。自習時間には、他の児童には漢字プリントが配られていましたが、A君にはそれが難しかったため、電子書籍教材「ミチムラ式漢字」を使って自習を行っていました。

ミチムラ式は、漢字の形を言語化することで、形の認識が苦手なお子さんが漢字を捉えやすくするための学習方法です。「形を覚える」ために有効であると同時に、電子書籍にはその漢字を用いた熟語と、それに関連する写真が掲載されているため、漢字の読みや意味、使用例の学習として有効と判断し、導入しました。

なお、こちらの電子書籍での学習も、学校導入の前に、弊社の学習支援の中で使い方の練習を行った上での導入でした。

ミチムラ式漢字

しかし、5年生に進級した際に担任の先生が変わり、タブレット利用がいったん打ち切られました。理科・社会の板書量が増え、英語の授業も本格化。英語の学習では罫線上への記入が難しいことなど問題が顕著になってきます。

板書については、支援級の先生が代筆してくださる日もありましたが、他の支援級のお子様への支援が必要な日についてはノートが空白になることもありました。

結果として、テスト前に保護者(お母様)と家庭で復習を行ってはいるものの、ノートが空白であるため学習範囲が把握できず、できるテスト対策に限りがありました。

 こうした経緯により、「今のままでは A君の学びが十分に保障されない」可能性が高く、改めて「合理的配慮」の必要性が浮き彫りになったこと―これが、今回の配慮検討・申請に至った背景です。

アセスメント結果と学習上の特徴

検査結果(WISC-Ⅳ)よりA君には、得意なことと苦手なことの間に大きな差があることがわかりました。

得意なこと…言葉で何かを説明したり自分の考えを言語化すること

苦手なこと…形を正しく捉えること・作業を行うこと

以下、弊社の学習支援でみられた様子をできていることとできていないことにまとめました。

できていること

  • 語彙力・言葉の力は十分にあります。
  • 音読については、ひらがなの長い単語は読みにくそうにしていますが、学年がすすむにつれて漢字表記が増えてくるとスラスラと読めるようになりました。漢字の読みも問題ありません。漢字の選択やタイピングでの漢字変換についてもよくできています。

できていないこと

  • 一方で、「目と手の協応(視覚─運動の協応)」が弱い傾向にあるため、板書や紙への書き込み、線の上への記入、ノートの整備など、 手で書くことそのもの が大きな負荷になっています。
  • 見本を見ながら書き写すことが極端に苦手です。

つまり、読むことはできますが、「書くこと」が困難 → 従来の紙のノート・板書中心の学習方法では、学習内容の記録や復習が断片的になりやすいと思われます。

こうした特性を踏まえて、弊社ではA君の状況を「合理的配慮」を検討すべきケースといえるだろうと判断いたしました。

学校の先生方・保護者様と話し合いを設け、「どのような配慮が本人の学びにとって必要か」「過度な負担とならず実現可能か」を見極めたうえで、タブレット学習の導入を進めていくことにしたのです。

 なぜ「今回」が適切なタイミングだったのか

学年進級とともに学習内容が難しくなった・板書量が増えた・授業進度が急激にはやくなったことにより従来の支援では対応が難しくなりました。

とくに以下に挙げる要因が考えられます。

  1. 専科の授業が増えたので、先生からきめ細かい支援が難しくなってきたこと。
  2. 英語の授業の書く量が増えたこと。
  3. 中学校を見据えた支援の方法・学習の方法を検討する時期に来たこと。
  4. 一定期間「書き能力の向上」のための支援を行ってきたが、ある程度の天井が見えたこと。
  5. 支援の先生の手厚い入り込み支援が、今後もずっと続くことは考えにくく、「誰かに手伝ってもらうというより、自分で出来ることを増やす」という方向性で保護者と同意をとれたこと。
  6. A君が一人でタブレット操作ができるようになったこと。  等

    担任・コーディネーター・支援担当の先生が交代したことで、あらためて本児の特性や学習のつまずきに気づき、保護者との協議のなかで「タブレット/ICT の導入」という選択肢が再浮上しました。
    近年、教育現場での「合理的配慮」の提供は、法律(障害者差別解消法)のもと、公立学校にも義務づけられており、公正な教育機会の保障に繋がります。合理的配慮及びその基礎となる環境整備(文部科学省)

    配慮の内容や方法は個別性が高く、「その子にとって何が支障か」を丁寧に見極めることが重要です。今回は「読む力はあるが書くことが難しい」という特性に対し、「書く負荷を軽減する方法=タブレット利用」の提案が最も妥当と判断されました。合理的配慮等具体的データ集(内閣府)

次回予告

次回(記事第2回)では、学校との連携(保育所等訪問とそこでのA君の様子)について詳しくご紹介したいと思います。