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こんにちは。SOLE個別最適学習ラボ編集部です。
お子様に関して、
・教えてもらったことをすぐに忘れてしまう
・忘れ物、なくしものが多い
・読み書き計算など学習内容が定着しない
というようなことでお悩みではないでしょうか。
それには、お子様のワーキングメモリ(WMI)の働きが関係しているかもしれません。
ワーキングメモリとは、一時的に記憶を保持しながら物事を処理する脳の働きです。
ワーキングメモリが低いと、一度に複数の物事をこなせなかったり、物事を最後までやりきれなかったりします。
今回は、ワーキングメモリとは?ということから、低い場合にどんな困りごとが起こるのか、困りごとへの支援方法やワーキングメモリを鍛える遊びについてご紹介していきます。
ワーキングメモリとは
ワーキングメモリ(WMI)とは、作業に必要な情報を一時的に記憶し処理する能力のことで、作業記憶、作動記憶とも呼ばれます。
音声や文字はもちろん、目で見て得た絵や位置関係なども一時的に脳に保存し、そのなかから必要な情報を取捨選択し、思考や問題解決、意思決定する際に用います。
情報の一時的な記憶だけでなく、思考や分析・判断といった行動の制御を並行して行うため、脳の処理能力そのものともいえます。
ワーキングメモリの役割
学校の授業や学習、新しいスキルの習得の際だけでなく、大人も子どもも日常生活のあらゆる場面でこのワーキングメモリを使って判断や行動をしています。
・作業の優先順位を決める
・同時進行で物事をすすめ、作業を途中から再開する
・決められたルールの中で過ごす
・過去の事例をすり合わせながら臨機応変な対応をする
・たくさんの資料を読み込み、情報を統合して内容を理解する
・訊かれた内容を聞いて理解しながら、同時に回答を頭の中でまとめる
上記のような役割によって、私たちは瞬時に適切な判断を行うことができるとされています。
これらの役割を見てみると、「地頭がいい」「仕事ができる」ということ=ワーキングメモリが優れているということ、といえるかもしれません。
ワーキングメモリの種類
ワーキングメモリは心理学上の名称で、そのモデルとして代表的な仮説としてBaddeleyら(2009)のモデルが有名です。
このモデルでは、脳の中には音韻ループ、視空間スケッチパッド、それらを統合するエピソーディック・バッファ、の3つが存在するとされています。
これら3つは中央実行系という脳の司令塔を使って制御しながら指示を与えます。
最終的にワーキングメモリを使って記憶した情報を処理し長期記憶に繋げていきます。
それぞれで役割と使われる場面が異なるため、以下で詳しく解説します。
音韻ループ(言語性ワーキングメモリ)
言語や音韻を処理する能力になり、音に関する情報を一時的に保管する役割があります。
人は目で見たり耳で聞いたりした情報を音に変えて記憶しています。
例えば、今読んでいる文章を頭の中で音に変えて読んでいるはずです。
音韻ループは、短いほうが処理しやすく、音が同じであったり似ていたりすれば記憶しづらいことが研究でわかっています。
視空間スケッチパッド(視覚性ワーキングメモリ)
言語化の難しい情報の処理に使われる能力で、視空間をイメージする際に使います。
一時的に情報を保存しながら、合わせて処理も行うことができます。
例えば、文字の書き写しでサイズやバランスをイメージするときや、空間内の物の配置を考えるときに使います。
また、写真を記憶し、見ずにその写真に何がうつっていたか思い出せることも視空間スケッチパッドの役割です。
視空間スケッチパッドを使って、同時に2つの事柄を処理するのは困難だといわれています。
エピソーディック・バッファ
上記の音韻ループと視空間スケッチパッドを結びつけ、時系列に沿ってまとめた記憶を形成するのに使います。
音や視覚などの過去の情報を一時的に脳内に保存し、文章を書いたり人と会話したりする際に使います。
映画や小説のあらすじを思い浮かべたり、より多くのデータを関連付けられるのはエピソーディック・バッファがあるおかげです。
音韻ループ、視空間スケッチパッド、エピソーディック・バッファはそれぞれ単体では短期記憶と呼ばれます。
ワーキングメモリが低い子の困り感
ワーキングメモリは、先に述べたように日常生活のさまざまな場面で必要とされる能力です。
では、ワーキングメモリが低いとどのようなことが起こるのでしょうか。
まず、なぜワーキングメモリが低くなるかについて簡単に述べていきます。
ワーキングメモリが低い原因
ワーキングメモリには個人差があり、差が生まれる原因にはさまざまなものが考えられます。
先天的な障害や、病気、生活習慣などさまざまな要因が、脳機能の低下に影響するといわれています。
神経疾患、とくに、アルツハイマー病を患っている場合はワーキングメモリの働きが低くなります。
睡眠不足の場合も、前頭葉や頭頂葉の活動量が減少し、正常に働かなくなります。
脳がうまく働かないと、動作記憶の力も低下するでしょう。
また、生活環境も大きな影響を及ぼすのですが、ストレスの多い生活も、ワーキングメモリが低くなる原因になります。
ストレスは脳の萎縮や過活動などを引き起こし、前頭前野をはじめとした脳機能を損傷させてしまいます。
ワーキングメモリが低いとおこること
では、実際にワーキングメモリが低い子どもはどんな困り感を抱えているのでしょうか。
・忘れ物が多い、物をよく失くす
ほかのものに気を取られ、ものをどこに置いたか忘れることがあります。
・複数の指示を覚えられない、頭の中を整理できない
情報の処理や統合が苦手なので、いくつかの指示があると抜けてしまいます。
・切り替えが苦手
ワーキングメモリの機能には、いらなくなった情報を捨てるという機能もあります。
前の作業をなかなかやめられず、すぐに次の作業に移れないことがあります。
・集中力が持続しにくい
情報が多くなると、必要以上に脳を動かして脳が疲れやすくなってしまい、集中力が切れてしまうことにつながります。
・読み書き・計算に時間がかかる、苦手意識がある
文章を読んでも前半の部分を忘れてしまうことがあるので、意味や内容をつかむのが難しくなったり、計算の手順を覚えていられなくなったりします。
・会話や口頭指示など、音声の情報が記憶できない
言われてすぐ行動に移せなかったり、指示そのものを忘れてしまうこともあるでしょう。
人の話を聞いていない、やる気がないと誤解された場合、人間関係の構築が難しくなるという恐れもあります。
ワーキングメモリと検査
ワーキングメモリがどのくらいあるかを検査する方法は、ワーキングメモリ自体を調べるテストとワーキングメモリが含まれる検査の2種類があります。
ワーキングメモリ自体を調べるテスト
項目が細かく分かれているため、くわしい検査ができます。
ワーキングメモリの中でも何が低くて、何が苦手なのかまでわかるのが特徴です。
AWMA(Automated Working Memory Assessment)
イギリスのピアソン社が販売しているテストです。
ワーキングメモリの4つの要素(言語的短期記憶・視空間的短期記憶・言語性ワーキングメモリ・視空間性ワーキングメモリ)をそれぞれ測定する3課題、計12課題から構成されるテストとなっています。
5〜11歳の子どもを対象に児童精神科や研究機関で実施されています。
テスト費用は実施機関によって異なります。
参考:ピアソン社
HUCRoW(Hiroshima University Computer-based Rating of Working Memory)
広島大学大学院教育学研究科が開発しているアセスメントツールで、日本の小中学生向けに開発されたものです。
ワーキングメモリの構成要素ごとに2個ずつ、合計8個のゲームで構成されています。
また、4〜7歳児を対象にした、簡易版HUCRoWも提供されています。
一般社団法人ワーキングメモリ教育推進協会の公式サイトからオンライン受験が可能となっています。
ワーキングメモリが含まれる検査
ワーキングメモリ専用のアセスメントテストでなくても、検査項目にワーキングメモリがある知能検査や認知検査を参考にすることができます。
国内ではウェクスラー式知能検査が最もよく使われており、児童向け(WISC)と成人向け(WAIS)の2種類があります。
医療機関で検査する場合は健康保険の適用になり、3割負担で1,350円~ですが、その他の機関で検査する場合、20,000〜30,000円前後の費用がかかります。
WISC-Ⅴ
対象:5歳~17歳未満
全般的な知能を表すFSIQをはじめ、特定の認知領域の知的機能を表す主要指標と子どもの認知能力の付加的な情報となる補助指標で知能レベルを判定します。
参考:WISC-Ⅴ
WAIS-Ⅳ
対象:16歳〜91歳未満
WISCと同じ、専門家(臨床心理士)が受検者と1対1で行う個別式の検査で、約1時間半程度かかります。
参考:WAIS-Ⅳ
※WISCとWAISの項目の詳細が知りたい方はブレインクリニックさんの記事へどうぞ。
※また、2022年2月よりWISC- Ⅳがリニューアルされ、WISC-Ⅴに新しくなりました。
コグトレ塾さんの記事に違いが掲載されております。
個別最適学習SOLEでは、専門性の高い支援を行うために検査に基づいたアセスメントを実施しております。WISCなどの知能検査以外にもニーズに合ったものをご提案させていただいております。
発達障害との関連性
ワーキングメモリの低さと発達障害の特性には共通点が見られます。
発達障害とは生まれつきの脳機能の発達のアンバランスさや、周辺環境・周囲との関わりのミスマッチによって社会生活に困難が発生する障害のことです。
落ち着いて行動することが難しい・板書が苦手・音読がたどたどしい等、ワーキングメモリが低い子どもの困りごとと発達障害をもつ子どもの困りごとは似ています。
そのため、この二つには関連があると考える方もいるでしょう。
しかし、ワーキングメモリが低いからといって、必ずしも発達障害であるとは限りません。
ワーキングメモリが低くても情報処理能力が高い子どもや、得意分野で高い能力を発揮できる子どももいるからです。
現時点でわかっているのは、発達障害の診断を受けた子どもはワーキングメモリが低い傾向にあるということだけで、医学的に関係性が証明されているわけではありません。
ただ、発達障害の特性をもつ子どもの支援において、ワーキングメモリに着目して考えるということは各専門家も述べられているため、ご参照ください。
参考文献:発達障害におけるワーキングメモリ特性を活かした学習支援(2014,室橋、春光)
ワーキングメモリと発達障害ー支援の可能性を探るー(2011,湯澤)
ワーキングメモリが低い子どものための支援方法
さて、ここでは子どものワーキングメモリが低く、困りごとが生じているときにできる支援方法をご紹介していきます。
ワーキングメモリが低い子どもへのサポートとしては、情報の伝え方を工夫したり、いろいろなツールを使って接したりすることで、ワーキングメモリの低さをカバーしていきます。
鍛え方はあるの?
実は、ワーキングメモリの機能自体を向上させる方法として、現時点で実証されているものはありません。
幼児期はワーキングメモリのトレーニングの効果が高いとする研究がある一方、ワーキングメモリ自体を鍛えるのは難しいとする研究もあるようです。
しかし、トレーニングした事柄そのものについては効果が見られるとされており、適度なトレーニングをすることで、子どもの困りごとを軽減していくことは可能です。
また、少しの工夫でワーキングメモリが低くても過ごしやすい環境を作ることができます。
そのため、子どもの問題行動を克服するには、苦手とすることや今起こっている症状について適切な支援を行うことが重要です。
サポート方法
ワーキングメモリは、脳の中に記憶を一時的に保ちながら、同時に作業や動作を行う能力です。
脳の中に記憶を保つことで脳の容量が足りなくなり、やるべき作業が追いつかなくなってしまうのであれば、記憶を「脳の外」に置くような支援をしましょう。
・こまめにメモをとらせる
・計算の過程を書き留める
・やることリストの一覧を作成する
・文字だけでなく、音声や絵、図を使った資料で説明する
・全体指示ではなく、個別指示をする
・大事な部分に線を引きながら文章を読ませる
・簡単な言葉でシンプルに伝える(一度に複数の指示をしない)
・伝わりづらいときは、何回か指示を繰り返す
・落ち着いた環境で話す
・身体の動きと関連づけて暗記させる
このように、脳内で管理しようとしていた情報を外に出し、目の前のことに集中できるような工夫をします。
学習での工夫
①指示は1度に1つ
一度の指示で複数の行動を促されると、子どもは混乱します。
簡潔な言葉でわかりやすく伝えることが大切です。
指示語や代名詞を避け、具体的なものの名前を伝えるようにしましょう。
また、口頭指示だけでなく、見てわかる情報も同時にあるといいですね。
②環境整備
学習環境として、余計なものが目に入らない環境がおススメです。
周りの刺激を抑えるために、音や光、温度、ノートのほかの情報など、できるだけ遮りましょう。
また、行動の切り替えができない子どもには1日のスケジュール表を作り、自分のやるべきことを確認できるような環境を整えます。
③ツールの利用
忘れ物やなくし物が多い子どもには、持ち物のチェック表やスマートタグを用意して記憶に頼らないで済むようにします。
スケジュール管理もGoogleカレンダーやリマインダを活用するなど、アプリやICT内蔵の機能を使いましょう。
毎日行う行動や習慣は動画や録音で確認できるようにし、ルーティン化をはかりましょう。
④長期記憶へとつなげる
支援や工夫のおかげで子どもの行動がいい方向へ変わったら、子どもを認める声掛けを行うことを心がけてください。
学習においては、反復演習を行うことで、定着をはかります。
本来はワーキングメモリで処理できる行動を長期記憶に置き換えることができれば、生活習慣を定着できるのはもちろん、子どもの自信にもつながります。
ワーキングメモリを使う遊び5選
遊びによって、脳や身体の成長に刺激を与えることは、多くのメリットがあります。
ここでは、ワーキングメモリ機能の向上を目指せる遊びをご紹介します。
・言葉遊び (記憶しりとり/さかさことば遊び…)
記憶しりとりでは、相手のいった言葉も含めてしりとりを行います。
例えば、A「りんご」B「りんご、ごりら」A「りんご、ごりら、らっぱ」というふうに、少しずつおぼえる言葉を増やします。
もし難しいようでしたら、紙に書くなどしながら取り組むといいですね。
逆さ言葉遊びは、クイズや文を逆さにしたものを聞いて、正しい単語に戻す遊びです。
最初は3文字など短い言葉から始めるといいでしょう。
文字を覚えながら逆さに直すのは短期記憶を鍛えるのに役立ちます。
・神経衰弱
裏返しにしたカードの中から、同じマークと数字のカードを引き当てる遊びです。
ワーキングメモリが低い子どもは苦手意識があってやりたがらない場合も多いかもしれません。
そのような場合は、マークだけ合えば正解というハンデを取り入れたり、トランプにこだわらず、子どもの好きな図柄のカードを用いたり、対決方式ではない形での遊び方にしてみましょう。
・マンカラ
紀元前4000年前にアフリカで作られたといわれている遊びで、東南アジアやヨーロッパなど世界中で人気のあるゲームです。
セット内容は、穴が12個空いたボードと、ビー玉などの石です。
6ヶ所ある自分の陣地と相手の陣地に4つずつ石を入れます。
自分の陣地の穴を1か所選び、入っている石を右の穴から順番に1個ずつ移動させます。
自分の陣地から先に石をなくした人が勝ちです。
「石を数える」「手を動かす」「相手の陣地を見る」「行動を予測する」など、ワーキングメモリを鍛える要素が満載です。
・二人遊び(手遊び/後出しじゃんけん…)
二人で遊ぶには、相手の様子を観察したり、結果を予想したりといった能力が必要です。
「アルプスいちまんじゃく」や「じゃんけんホイホイ」など、二人でできる手遊びで遊んでみましょう。
協力したり、対戦したりする動作には「次の動作はなにか」「相手はさっきなにを出したか」といった記憶力が必要です。
このようなワーキングメモリを使った遊びをすると、人間の行動をコントロールする脳の前頭前野と呼ばれる部位が発達します。
後出しじゃんけんは、相手がじゃんけんで出したあとに、勝つ手をだす遊びです。
例えば相手が「グー」を出したら「パー」を出します。
後出しといっても、最初はわざと勝つのが難しいものです。
目から入ってきた情報を認識してから、何を出せば勝つのか判断することが、ワーキングメモリの向上につながります。
子どもだけではなく、認知症予防のトレーニングでも使われる遊びです。
・外遊び(木登り、アスレチック…)
外遊びは、子どもたちにとってたくさんの刺激があり、認知能力やワーキングメモリを向上させるのに役立つ可能性があります。
なかでもオススメなのが木登りやアスレチックで遊ぶことです。
木登りやアスレチックは、自分が移動するたびに周囲の状況が変わります。
次の予想がつかない環境で、すばやく判断しながら体を対応させることで、短い間に頭の中で情報をさばく練習になるので、ワーキングメモリを鍛えることができます。
また、特に視覚的な刺激が多いので、家に帰ってから見たものや感じたことの話をしてもいいですね。
まとめ
ワーキングメモリは、日常生活において大切な「思考力」「判断力」「記憶力」に関わる脳の働きです。
ワーキングメモリの低さが原因で、日常生活や学校生活に困り感を抱える子どもが少なくありません。
メモリの低さには個人差がありますが、メモリが低い場合でも、適切な支援やサポートで十分に能力を発揮することができます。
もちろん、ワーキングメモリは睡眠やストレスなどで一時的に低下することもあるので、生活リズムの改善、適度に体を動かすことなど普段の生活も大事にしてくださいね。
ワーキングメモリ改善のためのトレーニングを行うときには、過度な負担がかからないように注意が必要です。
脳に負荷をかけたり、ストレスを感じる状況を作ってしまうと、状況が悪化してしまいます。
子どもの特性に合わせて、生きていくために必要な力全般を楽しみながら向上させていけたらいいですね。
SOLEでは、先述したとおり、WISCをはじめ、お子様一人ひとりに合わせた検査を実施しています。
また、検査結果からのアセスメント、支援方法の共有も行っています。
効果的な勉強方法や弱い指標のトレーニング方法なども合わせてお伝えしているので、少しでも気になってくださった方はSOLEのページをチェックください。
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