目次
こんにちは。
SOLE個別最適学習ラボ編集部です。
私たちは、大阪で発達障害のお子さんへの学習支援を行っています。
今回は、自閉スペクトラム症のお子さんへの学習支援について、お話ししたいと思います。
- 自閉スペクトラム症の子どもが勉強を嫌がる
- 自閉スペクトラム症があると、学習のどういう点に困るのか知りたい
そんな方々に向けて、この記事を書きました。
参考になれば幸いです。
自閉スペクトラム症(ASD)の学習の困りごと
自閉スペクトラム症は、発達障がいのうちの1つです。
これまで、自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー症候群などいろいろな名称で呼ばれていましたが、2013年にアメリカの診断基準が改定され、自閉スペクトラム症(ASD;Autism Spectrum Disorder)としてまとめて表現するようになりました。
持っている特性や、その強さは様々であり、知的レベルや運動機能についても幅が広いです。
そのため、「自閉スペクトラム症の診断がついているから、こういう困りごとがある!」と一概に言うことが出来ません。
一人ひとりの子どもの状態を理解した上で、学習についての支援を考える必要があります。
自閉スペクトラム症の学習の困りごとと学習支援
ここからは、自閉スペクトラム症のお子さんに見られやすい、学習での困りごとと、それに対する支援について説明します。
感覚処理特性(感覚の受け取り方)
私たちは生きている中で、同時にいくつもの感覚刺激を受け取っています。
画面を見て文字を読んでいますが、同時にテレビの音や電車の音なども聞こえているかもしれませんし、服の肌ざわりや椅子の座面(触覚)なども感じています。
でも、文字(視覚情報)に集中して、その内容を理解していますよね。
今重要な感覚情報(視覚)を取り出してきて、他の感覚情報は意識から遠ざけています。
このように、自分に必要な情報を取捨選択することを「感覚処理」といいます。
自閉スペクトラム症のお子さんは、特徴的な感覚処理をすることが多いと言われており、ある研究では、自閉スペクトラム症のある子どもの95%に何らかの感覚処理特性が見られたと報告がなされています。
感覚処理特性があると、以下のような感じ方になります。
- 蛍光灯の「ジー」という音と先生の声が同じ大きさで聞こえる
- 窓の外の鳥にいちいち気が付いてしまう
- 服の「ちくちく」が棘を刺されたような痛みに感じる
- カラフルな資料がチカチカして見えない
このような感覚処理特性は、周りからはなかなかわかりづらいですが、本人からすると耐え難い苦痛です。しかし周囲にわかってもらえず、教室から飛び出したり、パニックになってしまうことがあります。
支援の方法としては、まずはお子さまの感覚処理特性について、よく理解することが重要です。
感覚処理特性を知るために専門機関で使われる検査としては、JSI-Rや感覚プロファイル(SP)などがあります。
そして、本人の感覚刺激の特性に合わせた対応をとっていくことになります。
以下に一例を示します。
感覚処理特性の例①視覚情報をたくさん得てしまう
目にしたものに興味を奪われてしまうため、視覚情報を減らす支援が有効です。
- 活動に必要なもの以外はしまっておく
- 窓が見えない席にする
- 掲示物を減らす
- パーテーションなどで区切られたスペースで勉強する
- 1ページの問題数を減らす、コラムなどを消す
感覚処理特性の例②聴覚情報の整理が苦手
たくさんの音の中から必要な音を拾うのが苦手なお子さんには、以下のような支援が有効でしょう。
- 隣の部屋の音が入りにくいよう、扉を閉める
- 指示は視覚情報(文字や絵・写真)で提示する
- イヤーマフなどで余計な音を遮断する
- ノイズキャンセリングのイヤホンをつける
心の理論の課題
「心の理論」とは「他者の心を類推し、理解する能力」のことを言います。
他人の立場に立って考えるための力ですね。
定型発達のお子さんは5歳までに獲得できると言われていますが、自閉スペクトラム症のお子さんは、心の理論の獲得が遅れることが指摘されています。
心の理論の獲得が遅れると、「自分がこう行動すると、一緒にいる人がどう思うか」が理解しにくいです。
- 教室で一人で喋り続けてしまう
- 順番に道具を使う時に長時間独占してしまう
- 順番待ちができない
このように、集団の中で上手く過ごすことが難しくなってしまう場合があります。
また、国語の文章を読むときに、登場人物の心情の汲み取りなどの理解が苦手なことも多いです。
支援の方法は、次の項目の「言語理解・抽象概念の課題」と合わせて記載します。
言語理解・抽象概念の課題
自閉スペクトラム症(ASD)のお子さんは、言葉の理解に遅れがあることがあります。しかし、話し言葉が流暢である場合も多く、気づかれにくいかもしれません。
自閉スペクトラム症のお子さんは、想像する・イメージすることに苦手さを持っており、言われたことを言葉のままに捉えてしまう傾向があるからです。
言葉の背景にある「意図」を読み取ることが苦手、とも言えるでしょう。
そのため、「聞いていたけれど、理解できていなかった」という結果になってしまうことがあります。
例えば「ちゃんとやりなさい」「しっかりしなさい」というような先生の言葉も、何をどう「ちゃんと」「しっかり」するのかが分かりません。
「立ち歩いてはいけません」などの禁止の言葉もそうです。
支援方法としては、具体的に取るべき行動を指示することを心がけましょう。
- 椅子にお尻をつけて座ります。
- ボタンを下まで止めます。
- 授業中は椅子に座ります。
場合によっては言葉ではなく、イラストや写真を使って指示をする必要があります。
また、曖昧な場の空気や、流れなどを汲み取ることも苦手です。
学習する時のルールを明確化し、理解できる形で伝えましょう。
- 先生の話を聞くときは、えんぴつを置きます。
- 問題を解くときは、黙って取り組みます。
- トイレに行きたいときは「トイレに行きたいです」と先生に言います。
また、適切な声の大きさ、話すスピードなども理解が難しいかもしれません。
1の声はひそひそ声、2の声は普通の声、3の声はあいさつの声、など基準を決め、図で表して、都度確認していく方法があります。
学習内容については、比喩表現についての学習や、登場人物一人ひとりの心情を詳しく読み解く練習を重ねるとよいかもしれません。
ワーキングメモリーの弱さ
自閉スペクトラム症(ASD)のお子さんはワーキングメモリーと呼ばれる、情報を一時的に記憶しておくことが弱い方が多いです。
例えば、黒板に書いてある「こんにちは」という文字をノートに書きうつすときを考えましょう。
- 黒板の「こんにちは」の文字を読む
- 「こんにちは」と書いてあることを覚えたまま、目線をノートに写す
- ノートに「こ」と書く。その間、「んにちは」を書くことを覚えておく
この2と3の「覚えておく」ために使われるのがワーキングメモリーです。
ワーキングメモリの容量が少ないと、例えば「こんにちは」の「こんに」までしか覚えられないかもしれません。複雑な漢字だと、その一部までしか正しく覚えられないでしょう。
このように、ワーキングメモリーの低さが、学習の苦手さにつながっている場合があります。
支援方法としては、脳の中に記憶を保つことで脳の容量が足りなくなり、やるべき作業が追いつかなくなってしまうので、記憶を「脳の外」に置くような支援をしましょう。
- こまめにメモを取ったり
- 計算の過程を書き留める
- 大事な所に線をひきながら読む
- 簡単な言葉でシンプルに伝える(一度に複数の指示をしない)
ワーキングメモリーについては、以下の記事で詳しく解説しています。
シングルフォーカス・シングルタスク
シングルフォーカスとは、一度にひとつのことにしか注意が向かないことを指します。
また、シングルタスクは、ひとつの作業に集中して作業を遂行することを指します。
シングルタスクの反対語はマルチタスクですね。
自閉スペクトラム症のお子さんは、シングルフォーカス・シングルタスクの傾向があると言われています。
そのため、ノートを書いているときには、先生の声は聞こえていないかもしれません。
(大事な所ではない)細部にこだわってしまい、次に進めない時もあります。
1つの情報に集中しているので、いくつかの情報を「結び付ける」ことの苦手さも、学習に影響を与えます。
支援方法としては、以下のようなものが考えられます。
- 話を聞く時間、ノートを書く時間、問題を解く時間はそれぞれ区切る
- やることリストを作り、1つずつ順番に取り組めるようにする
- 読解文では、大事な単語に丸をしておき、後から結び付けやすくする
見通しのつかなさ
自閉スペクトラム症のお子さんは、感覚情報の取捨選択の苦手さ、曖昧な状況の苦手さ、シングルフォーカスなどから、見通しをつけることが苦手な場合が多いです。
そして、「見通しがつかず、よく分からない状況」が不安で、集中できなかったり、パニックになることもあります。
何をどれくらいやればいい、などスケジュール管理にも苦手さが見られることもあるでしょう。
そのため、支援方法としては「構造化」がキーワードになります。
構造化とは、「どう動いたらいいか」「何をしたらいいか」を明確にして、子どもと共有することです。
- 出来るだけ同じルーティンの中で学習が出来るようにする
- 今日のスケジュールを分かりやすく掲示する
提出物なども、「〇日までに20ページやる」ではなく、「1日2ページやる」など具体的な行動パターンまで落とし込むと取り組みやすいです。
まとめ
自閉スペクトラム症といえども、出てくる困りごとはお子さんそれぞれです。
お子さんが何に困っているのか、それは何故起こるのか、をよく理解することが大切です。
専門機関での検査や助言も役に立つかもしれません。
また、児童福祉制度の中には「保育所等訪問支援」という、専門家が保育所や学校を訪問し、学校生活や学習の方法について先生と情報交換する制度もあります。
これらを活用することも検討してみてください。