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こんにちは。個別最適学習ラボ編集部です。
私たちは、大阪で発達障害・知的障害のお子さんに対し、学習支援を行ってきました。
今回は、軽度知的障害のお子さんと学習する場合のポイントをまとめてご紹介いたします。
- 学習についていけないが、どうしたらいいか分からない
- どこまで学習させるべきか分からない
- どのような支援があればよいか分からない
軽度知的障害のお子さんの保護者、あるいは支援者に向けて書きました。
参考になれば幸いです。
軽度知的障害について
軽度知的障害という診断について
軽度知的障害とは、知的障害の中で程度が「軽度」に分類される場合を指します。目安としては、IQ50~69程度ですが、子どもの置かれている環境や困り感によって左右されます。
軽度知的障害のある方は、日常生活や軽い雑談程度であれば出来ているように見えるため、周囲の人からは気づかれにくいことがあります。
しかし、抽象的な内容の理解が難しかったり、臨機応変に動くことが出来なかったり、複雑な手続きや契約が出来ないなど、困る場面が徐々に増えていきます。
また、自閉スペクトラム症(ASD)などの発達障害との併存が多いことや、うつ病といった精神障害を発症する二次障害が起こる可能性も指摘されています。
そのため周囲が早期に気づき、本人に合った学習方法や環境を整えていくことが、軽度知的障害のある子どもが将来社会生活をおくる上でも大事です。
軽度知的障害の特徴について
軽度知的障害のお子さんは、幼少期は「言葉が少ない」「指示理解が少し悪い」などの特徴がありますが、大きな問題になることは稀です。
主に小学校入学後に、読み・書き・計算といった学習に遅れが出たり、授業のスピードについていけなくなるといった場面が見られるようになります。
他にも集団での会話についていくのが難しい、抽象的な説明の理解が難しい、話すときは単語を羅列するなど、コミュニケーションでの困難さが見られる場合もあります。
また、日常生活の中では、お釣りの計算、時間の把握や予定の把握、段取りのつけ方などで困り感が出てくることがあります。
軽度知的障害と似た障害として、学習障害があります。
知的障害は全般的な遅れが見られる障がいであり、学習障害は特定の学習にのみ困難が生じる障害のことです。
学習障害には、「識字障害」「書字障害」「算数障害」といった種類があります。
学習障害については、以下の記事をご覧ください。
軽度知的障害の子に学習支援が必要な理由
軽度知的障害のお子さんは、一般的な学校カリキュラムの中では、どうしても学力不振に陥りやすいです。
「学力が振るわないと進路が・・・」「将来が・・・」と思われる方も多いと思いますが、進路については、(地域によりますが)最近は選択肢も増えてきました。
学校の勉強についていけないことには、それ以上に大きな問題があります。
それは、子どもたちの自尊心です。
授業内容は分からない、提出物が何かも分からない、テストをすれば低い点数、それが周囲に知られてからかわれる。
このような状態が長く続くと、「どうせ分からない」「勉強したって無駄」という気持ちになってしまい、学習の意欲は低下し、さらに学習の遅れが大きくなってしまいます。
また、長期間ストレスにさらされたことで、二次障害が起こってしまうことがあります。二次障害とは、もともと持っていた障害(今回の場合は軽度知的障害)の影響で生活が上手くいかず、そのストレス等から抑うつ状態や不登校など、次の問題が生じてしまうことを言います。
この「自尊心の低下」「二次障害」を防ぐためにも、軽度知的障害のお子さんへの学習支援が必要と考えています。
学習支援の方法
では、ここから、軽度知的障害の子どもに対する学習支援について、具体的に説明していきます。
繰り返し学習する
軽度知的障害のお子さんは、記憶することが苦手な場合が多いです。
一度教えてもらって、その時は出来ても、次にやる時には忘れてしまっていることも。
しかし、その子のレベルに合わせた課題であれば、少しずつ覚えて定着していきます。
同じ内容を繰り返し学習することが大切です。
やるべきことを整理する
軽度知的障害のお子さんは、たくさんの情報の中から優先順位を決めて計画を立てることが苦手な場合が多いです。
また、先生の指示などを正しく記録できているか、宿題のメモを間違えずに書けているか、この辺りにも課題がある場合があります。
支援する立場にある人は、学習そのものを教える支援だけでなく、「本人の学習計画を一緒に立てる」という点も意識してみてください。
宿題や提出物の場合は、まずは全体量を把握します。
一枚の紙に書きだせるとよいですね。
抜け漏れの可能性がある場合には、学校の先生に聞いたり、友人などに確認するようにしましょう。
その後、1日に何ページずつやれば、期限までに終わるのかを一緒に計算します。
例えば、見通しが苦手なお子さんは「10日後までに50ページ」というのが、どのくらいのペースでやればいいかが分かりにくいです。
「1日に5ページ」という所まで落とし込みましょう。
このとき、メモを自分で書くことも一工夫が必要です。
言われたことを逐一書いていては、書くのが追いつかずに書き洩らすことがあります。
しかし、省略して書くときに何が大事かが分からず、大切なことを省略してしまう場合があります。
また、書いたメモを後から見ても、何を書いたか分からないメモになっていることもあります。
どこに何を書くのか、そのメモはいつ見るのか、などのメモを活用する練習も必要です。
また、各教科の勉強として「どの教材をどうやって勉強するのか」を支援者が決めてあげると、本人たちが勉強に取り組みやすくなります。
「この問題集の、A問題と単語のところを解いて丸付けする。応用問題のB問題・C問題はやらなくてよい。」など、本人のレベルに合わせて検討していきます。
スモールステップに分けて説明する
軽度知的障害のお子さんは、一度にたくさんの事を伝えられても理解が追い付かないことがあります。
学習内容の説明についてもそうですし、やるべき課題の内容や、宿題の詳細なども、細部まで聞けていないこともあります。
「〇〇して、そして次に××して~~~」と続けて話してしまいがちですが、一文の中で伝えることは一つだけにすることを意識しましょう。
また、口頭の説明よりも、視覚的な説明の方が理解しやすいことが多いです。
指示や説明は、口頭だけでなく、紙や黒板に書いて伝えるようにします。
さらに、字のみでなく、図やイラストを積極的に用いましょう。
アプリなどのツールを使用する
記憶が難しかったり、忘れ物が多いなどのお子さんには、アプリを使った支援も有効です。
また、上記のように、図や写真・動画を使った説明の方が理解しやすい場合もあります。
下記のサイトに、お子さんの特性ごとに使えるアプリがまとめて掲載されています。
よければご参照ください。
https://shien-network.kanafuku.jp/use/apps/
https://www.tokyo-itcenter.com/700link/sm-iphon4.html
合理的配慮を相談する
学校での困り事に対しては、配慮を依頼することも可能です。
ただし、何でも希望すれば配慮してもらえる訳ではなく、「合理的配慮」を求めることができます。
合理的配慮については、大阪府のホームページでは、以下のように説明されています。
障がいのある人が教育を受ける場面で、何らかの配慮を求める意思の表明があったときは、負担になりすぎない範囲で、社会的障壁を取り除くために必要で合理的な配慮を提供することが求められます。
例えば、
・聴覚過敏の生徒のために、机やいすの脚に緩衝材をつけて教室の雑音を軽減する。
・支援員等の教室への同伴や、授業でのノートテイクやパソコン入力支援等を許可する。
・意思疎通のために、手話や要約筆記のほか、絵や写真カード、タブレット型端末等を活用する。
・入学試験において、別室受験、時間延長、読み上げ機能等の使用を許可する。
といったものが挙げられます。
https://www.pref.osaka.lg.jp/keikakusuishin/syougai-plan/sabekai_guideline.html
大阪府障がい者差別解消ガイドライン<令和3年3月改訂版> 教育分野
担任やカウンセラー、支援級在籍の場合は支援級の先生などに相談し、本人の学校での様子などを確認しながら、合理的配慮について検討していきます。
書くのが苦手な場合は、用紙の拡大、時間延長など。
読むのが苦手な場合は、ふりがなや代読など。
どのような配慮が必要になるかは、そのお子さんの持っている特性によって異なっており、専門家の意見が必要となることも多いです。
学習内容について精査する
本人が学習していく中で、あまりにも高いレベルの学習内容に対し、自信をなくし、勉強への意欲を失うこともあります。
教科学習を行う際は、その学習内容が本人にとって難しすぎないかどうか、支援者は常に気にかけておきましょう。
特に、国語や英語の長文、作文、要約など、算数の文章題などは苦手な傾向があります。
また、お金や時計の理解・スケジュールの把握など生活に直結する事柄については、将来のために優先して身に着けてほしい知識ともいえます。
それらが苦手な場合には、重点的に取り組むことも必要かもしれません。
まとめ
今回は、軽度知的障害のお子さんの学習支援についてご紹介しました。
子どもに合った学習内容を、適切な支援の中で学ぶことで、「出来た!」という気持ちを本人が持つことが大切です。
そのためには、お子さんが何に困っているのかをよく理解し、それがなぜ起こっているかを考える必要があります。
専門機関での検査や助言も役に立つかもしれません。
また、児童福祉制度の中には「保育所等訪問支援」という、専門家が保育所や学校を訪問し、学校生活や学習の方法について先生と情報交換する制度もあります。
これらを活用することも検討してみてください。